UNIQLOの女性用ジャケットにポケットがないのは女性差別? レディースファッションのデザイン問題を元アパレル企画職が解説

ユニクロの女性用ジャケットにポケットがないのは女性差別? レディースファッションのデザイン問題を元アパレル企画職が解説

こんばんは!
パーソナルスタイリスト・服装心理カウンセラーの久野梨沙(@RisaHisano)です。
ファッションで人の心を知り、動かす「服装心理学®」を活用した個人向けスタイリングやスタイリスト育成、講演活動などを行っています。

SNS上で、以下のつぶやきを発端に、「なぜ女性の服にはポケットが少ないのか」が議論を呼んでいます。

該当の商品は、こちらの向かって左側の商品ですね。

 

メンズの感動ジャケットはこちら。確かにレディースにはない胸ポケットがついていますね。

値段はどちらも5,990円です。

 

一般論として、メンズとレディースのデザインの違いは?



ユニクロに限らず、レディースのスーツジャケットはメンズとは仕様が異なる点が多々あります。

まず、胸ポケットと内ポケットはほとんどの既製品のスーツジャケットにはありません。

メンズのスーツジャケットには必ずある袖口のボタンもほとんどのレディースジャケットにはありませんし、ウールなどの天然繊維が中心のメンズジャケットに比べ、レディースは化繊中心、という違いもあります。

 

また、スーツ以外に目を移すと、メンズにはないアイテムであるワンピースも、ポケットがないものは多々ありますね。

ボトムも飾りポケット(ポケット風の布はついているが、実際には物を入れることはできない偽物ポケット)であるケースも結構あります。

 

さらに、冒頭のツイートには「ユニクロのボア付きのアイテムは、メンズの方がしっかり分厚いのに、レディースの方がすごく薄い」という声も寄せられていました。

ユニクロのTシャツシリーズであるUTも、メンズはコットン100%だけど、レディースはレーヨンが混紡されていてちょっとテロンとしている…というのもよくありますね。

 

メンズとレディースのデザインの違いは、女性差別?女性全員がポケットを望んでいるなら差別になり得るけど……

 

こうしたデザインや仕様の違いを知ると、「なんで男性の服の方が便利なの?!同じ価格払っているのに、女性ばかりが損する!」と怒りが湧く人がいるのもわからないではありません。

ただこれが、女性差別の結果生まれているのか、というと……。
もともとアパレルメーカーで企画をやっていた私の経験から考えると、決してそういうわけではないんだけどな…という思いがあります。

 

そもそも、女性服のデザインのほとんどは女性がやっていますしね。
デザイナーズブランドだったら女性服のデザインに男性もそこそこいますが、ユニクロとか、お手頃価格で買えるブランドの場合は、女性服のデザインは8割方女性がやっている、と思っていいんじゃないでしょうか。

上司に至るまで女性であるケースも少なくないので、「現場デザイナーの女性がポケットをつけても、上司である男性がそれを却下してしまう」みたいな構図も当てはまらないと思います。

 

じゃあなぜ男女で仕様やデザインが変わるのか?

例えばポケットやボアの厚みの話でいうと、シルエットを考慮した結果である可能性がまずは考えられます。

 

ポケットをつけるということは、そこに袋布といってポケットの物を入れる部分の布をつけることになります。するとその部分の布が単純に3重になることになりますよね。

これが結構ごわついて、シルエットに悪影響を及ぼすことも多いです。
レディースの服はメンズに比べてシルエットが細身で体に添っていることも多いため、この布の重なりが想像以上にシルエットを変えます。

 

そして、私がパーソナルスタイリストとして多くのお客様について洋服をお見立てした経験から言うと、服に機能性を求めてポケットが欲しい!と言う人と、シルエットが綺麗でいて欲しいから、ポケットなどごわつくのが気になると言う人と、人数はあまり変わりません。

 

久野梨沙
久野梨沙
なんせ、レディース服では縫い目すら「シルエットを崩す」として、縫い目がないニットの製法「ホールガーメント」がもてはやされるくらいですから……

縫い目やポケットの角は肌に当たって痛いから苦手、という女性のお客様も結構いますよ〜


 

女性なら誰しも、ポケットが欲しいものだ、というような決めつけはとても危険だと思います。

男女問わず、ファッションに求めるものは本当に多様です。

「女性でもポケットが欲しい人はいる!」という主張なら大いに賛同できますが、「ポケットがあって困る女性はいないはずなのに、ないのはおかしい!」という主張は、それはそれでジェンダーに囚われすぎて多様性を無視した主張なんじゃないかと感じます。

 

また、ユニクロに限って言うと、結構前から商品分類としてはメンズ・レディースって一応分けてはいますけれど、メンズの仕様やデザインが好きな人は女性でもメンズ買ってね、ってスタンスですよね。

だからメンズ服のページでも、コーディネート例では女性の店員さんがたくさん載っています。
ボアが着いているようなカジュアルファッションであれば、女性でもメンズのサイズで問題ないケースが多いので、わざわざレディースで全く同じ仕様では作っていない、という理由もあると思います。

 

 

バリエーションが多い女性服を作るのに、コストと戦った結果であることも。メーカーも頑張ってるはず

 

また、メンズとレディースの服で最も違うのは、そのバリエーションの数です。
型数(デザイン数のことです)が、レディースはメンズと比じゃないくらい多いんです。

 

例えば、男性物はボトムといえば基本的にパンツのみ、ですよね。
でも女性はどうでしょう? 

パンツに加えてスカート、ガウチョ、ワンピースもあります。そしてそのそれぞれにシルエット違いでたくさんのデザインが必要とされます。

 

型数が多いということは、売れるものが分散する、ということ。洋服は同じ型をたくさん生産した方が、コストを下げることができます。
生地も一度にたくさん仕入れた方が安いですし、同じ型をたくさん縫製してもらったほうが、1枚あたりの工賃(縫製工場に払う手間賃)だって下げることができます。

 

レディースの場合は「同じデザインの服をドバッと作ってコストカット!」っていうのが、男性に比べてしづらいんですね。
なので、ユニクロの感動ジャケットのように男女で同じシリーズを同じ価格で出そうとすると、女性物のほうは仕様を削ってコストカットせざるを得ない、みたいなことはよくあるわけです。

 

久野梨沙
久野梨沙
私がリーバイスの本社にいたときも、、メンズのジーンズに比べてレディースのジーンズの型数の多さに、本当に泣いていました…💦

需要が分散するので、在庫リスクを考えると売れなそうな商品は生産中止にせざるを得ないとか。
同じような仕様にしてもどうしても価格が上がってしまうのをどうするか、とか。


それに加えて、レディースの方がトレンドの移り変わりが早く、同じデザインを長期間売るのが本当に難しい。
だから余計に「たくさん作ってコストカット」ができないんですよね。

 

それに加え、スーツやジャケットはそもそもメンズのほうが売れます。
これは街中見ていてもわかるんじゃないでしょうか。
スーツ着ている女性の方が、スーツ着ている男性より圧倒的に少ないですよね。

ドレスコードをカジュアルにする会社が多い中、「男性はジャケット着用、でも女性はニットカーディガンでもOKだよ」という感じで、慣習的に女性のほうが男性より1段階カジュアルな格好が認められていることが多いからです。

 

そうなると、レディースのジャケットをほぼほぼ同じデザインでメンズと同価格で出せるってこと自体、ユニクロの企業努力や大量生産パワーを感じてしまいます。
ポケットは見逃してやってくれ😭と思ってしまうのは、元アパレルメーカー勤務が故の贔屓目なんでしょうか……。

 

同じ飛行機のチケットが男性と女性で価格が違ったり席の種類が違ったら問題になるでしょう?ジャケットだって同じこと!
女性
女性


といった主張も見かけましたが、飛行機のチケットでこの構造をもし例えるなら、

 

① 1機の飛行機を60人の男性で貸し切る
② 1機の飛行機を30人の女性で貸し切る

という例えの方がより正確でしょう。

決して女性差別をしたいわけじゃなく、②の方が1人当たりの運賃が上がってしまうのはやむを得ない、とわかっていただけるんじゃないでしょうか。

 

とはいえ、レディースのデザインを甘んじて受け入れろ、というわけじゃない!声を上げよう!そして応援もしよう!

まぁここまで書いたことはあくまでメーカー側の都合ですから「そんなの知らんがな」という向きもあるでしょう。十分わかります。

だから気にせず、どんどん声を上げて、メーカーにリクエストを出せば良いと思います。
その声を圧殺しようとするのはおかしい。

 

たくさんの人が声を上げれば、メーカー側も、「多少コストが上がっても売れるかも。
だったら頑張って作っても赤字にはならないかな…」と背中を押されて、そういう服が増えるかも知れない。

 

しかし、もしかしたらリクエスト通りの仕様にした結果、少し値段が上がるかもしれないということは考慮に入れておく必要はあります。
現代、洋服はあまりに安すぎると思います。ユニクロだってそのクオリティを考えると信じられないくらい安い。

そこにプラスで新たな仕様が乗っかれば、値段は普通は上がります。
それにNOを唱えることは、今度は別のどこかに歪みを生みます。
例えば服を作る人の労働環境とか、原材料の買い叩きとか。

 

また、現状でも既に、レディースのスーツでもメンズ並みの充実した機能性で作っているブランドはあります。
ユニクロに比べて小さいブランドなので話題になりづらいですが、もしそういうブランドに出会ったら、できれば、買って応援して上げて欲しいなと。

 

私がパーソナルスタイリストになったのは、「ポケットが欲しいのにない」とか「自分に合う服がない」というお客様と、それを地道に作っている目立たないけど頑張っているブランドを引き合わせたい、という思いが理由でした。

ユニクロのような大きいブランドだけじゃなくて、頑張っている小さいブランドもたくさんあるよー、と、これは私もこれからさらに頑張って、そういう情報をお届けしたいな、と思う次第です。

 

また、メーカーサイドも、何らかのリクエストがあった際にもし経営的な問題で実現が難しかったとしても、それをしっかり説明するアクションが大事なんじゃないかな、と思います。

想像以上に、服にかかるコストのことは知られていないです。

それをお客様に知ってもらうことが、自社の企業努力を知ってもらう近道だと思うのです。

 

男女の別に関係なく、そもそも人間は多様なんだからいろんな服の選択肢が合った方が良いよね

 

…と、思います、私。何も男女の対立構造にする必要はないかな、と。
もちろん女性差別の結果生まれているたくさんの問題を矮小化するつもりはありませんが、そもそも服装に対しては、男女の2カテゴリーでは到底足りないくらい、求めるものが多種多様。

 

パーソナルスタイリストとしていろんなお客様の服探しをしていると、

 

「頼むーーーーー同じような服ばっかり作らないでくれーーーーー!!!」

 

と叫びたくなることは多々。

 

ポケットがある服ない服、パーソナルカラー別の服・違うパーソナルカラーの色が混在している服、デザインがてんこ盛りの服・シンプルな服、洗濯機でがらがら洗える服・手洗いじゃないと壊れちゃいそうな繊細な服……

 

いろんないろんなバリエーションが欲しいのです!そのほうが私の仕事が楽になる!!(あ、本音が出た)

 

でも、アパレルの厳しさもわかるから。

お客様の要望を汲んで頑張っている商品は、どんどん紹介して、少しでも応援したい。

改めてそう思っています。

大人世代に必要なおしゃれの知識が学べる、服装心理lab.
9月のテーマは
「体型タイプ別に知る、服のサイズ感」

大人のためのおしゃれの学び場「服装心理lab.」はおしゃれの”超”基本と服装心理学を学べる月額制サービス。
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9月のレッスンテーマは「体型タイプ別に知る、服のサイズ感」

似合うかどうかに加え、服がおしゃれに見えるかどうかの重要な要素が、「今っぽい」かどうか。

そしてその「今っぽさ」の鍵を握るのが、服のサイズ感です。

サイズ感は、今の主流のシルエットと自分に似合う大きさ・形を掛け合わせた概念。トレンドのシルエットがだんだん細身に移行しつつある今、自分に適したサイズ感の知識をアップデートしておきましょう。

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久野梨沙 Risa Hisano

スタイリスト・服装心理カウンセラー久野梨沙

(株)フォースタイル代表取締役、(社)日本服装心理学協会代表理事。

大手アパレルメーカーで年間売上総額60億円に上るアパレル商品を手掛けた経験と、 心理カウンセラーとしての知識を活かし、独自の「服装心理学に基づくパーソナルスタイリング」を生み出しました。
All Aboutファッションガイドなどファッションライター、セミナー講師としても活躍中。

プライベートでは2016年生まれの男児を育てる1児の母。

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